『Q&Aアーカイブ』


 これまでに、日本電気泳動学会に寄せられた電気泳動に関する質問に対して、専門の先生にお答えを頂いた内容の中から、他の会員にも参考になると判断されたものを、アーカイブとして掲載しております。



質問1. 
 『(患者血清において)免疫固定法でIgD抗体と反応する2本のバンドとそのバンドとは移動度の異なる light chain を認めた。この先、それぞれの同定方法と原因を伺いたい。また IgDは in vitroで容易に分解しやすいと言われるが、どのように分解されるのかを伺いたい。』 (天理よろづ相談所病院 臨床病理部 松田様からのご質問)

------------
<藤田清貴先生からのご回答>

1) 抗IgD(δ鎖)抗体と反応する2本のバンドの考え方
 抗IgD(δ鎖)抗体を用いた免疫固定法で2本のバンドが出現するということですが,2本ともL鎖の抗λ(あるいは抗κ抗体)と同じ電気泳動移動度でバンドが形成されているとすれば,2本ともIgD-λ(あるいはκ)のM蛋白と同定されます。もし,1本がL鎖の抗体と反応していないバンドであるとすれば,H鎖のみから成るδ鎖蛋白の可能性も考えられます。

 それでは,なぜ,移動度の異なる2本のIgD型Mバンドが観察されたのか,ということですが,原因としては,(1)分子量の異なるIgD型M蛋白が出現している,(2)糖鎖修飾の異なるIgD型M蛋白が出現しているなどが考えられます。その確認法としては,(1)の場合,SDS-PAGE後のWestern Blotで分子量を測定し,抗IgD(δ鎖),抗L鎖抗体で分子量に相違や異常がないか確認する,(2)の場合は,シアル酸による修飾が考えられますので,ノイラミニダーゼによる酵素処理を行って1本のバンドになるか確認する,等が良いと思います。

2) 移動度と異なる抗L鎖抗体と反応するバンドの考え方
 2本のバンドの移動度と異なるL鎖のみのバンドはBence Jones蛋白(BJP)の可能性が高いです。ご存知かも知れませんが,IgD型多発性骨髄腫の場合,M蛋白のL鎖は圧倒的にλ型が多く,ほとんどの例でBJPを伴います。

3) なぜIgD分子は自然分解を起こしやすいのか?
 IgD分子のストークス半径は免疫グロブリン中最大です。これはFc部分が大きいこと,IgDの糖含量が多いこと(約14%)が原因していますが,そのため分子の縦横比が大きいことで,hinge部が特に切れやすい高次構造になっています。IgDの自然分解はトリプシン分解の地点で切れることが知られています。

日本電気泳動学会のホームページ(トップページ)に戻る